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大阪高等裁判所 昭和41年(う)853号 判決

被告人 岡本勝治

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人岡沢完治、同渡部孝雄連名作成の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

控訴趣意中事実誤認、法令適用の誤の主張について(原判示第二の事実)

論旨は、原判決は、判示第二において、被告人は、浜口憲次、小林菊松、鈴木均と共謀のうえ爆発物を使用した事実を認定しているが、被告人は、単に共謀したに止まり、それ以上に犯罪を実行したものではない。そして爆発物取締罰則第一条は、爆発物使用の実行正犯のみを処罰し、共謀共同正犯を処罰の対象としているものではない。爆発物使用の共謀に止まる者に対しては、同罰則第四条に処罰規定がある。原判決が、被告人に共謀による爆発物使用罪を認定したのは事実の誤認であり、かつ法令の適用を誤つたものであるというのである。

しかしながら、原判示関係証拠によると、被告人は、所論のように単に共謀したに過ぎないものと考えることはできない。すなわち、被告人の検察官及び司法警察員に対する各供述調書及び小林菊松、鈴木均の検察官に対する各供述調書謄本を総合すると、被告人は、原判示のような動機から都会会長浜口憲次指揮の下に、同人やその配下である小林菊松、鈴木均らと、都会幹部山本道男を刺殺した松浦良二の属する原判示池田組及び多賀組の関係者に報復を加えることを企図し、原判示第一のように昭和三八年一〇月一二日浜口憲次らと共謀のうえ、拳銃で池田組事務所を襲撃せんとしたが、警戒厳重のため果さず、次いで右会長浜口憲次指揮の下に、ダイナマイトで池田組事務所を爆破する計画を立て、同月一四日午前一時ごろ原判示第二の犯行に先だち一回決行せんとしたが、その際も失敗に帰し、更に右浜口や小林菊松、鈴木均らと、謀議を練り、同日午前六時過ごろ出発して二回目の決行を企てたもので、その際機動用として自動車を使用することとし、原判示孔雀荘前より被告人が乗用自動車を運転し、同自動車に共犯者の小林菊松、鈴木均が同乗し、その際小林が牛乳瓶に詰めたダイナマイトに雷管及び導火線を装置したもの一個を携え、かつ右両名が各拳銃一丁づつ携行し、大阪市城東区今福中一丁目五〇番地池田組事務所へ向う途中同区蒲生四丁目交差点近くで、小林と鈴木がタクシーに乗り換えて、池田組事務所の状況を偵察し、約二〇分後右の二人が帰つて来て、右小林が被告人に「今池田組事務所は全然警戒しておらん、今がチヤンスや、池田組事務所の前で自動車を止めてくれ」などといい、被告人は右両名を自動車に乗せて発車し、途中の道路で更に五分間位休憩し、その際小林は被告人に対し「自分は池田組事務所の手前の信号機のある所位でダイナマイトに火を点けるから、その辺からスピードを落としてくれ、事務所の前へ行つたら自動車を止めてくれ」などと池田組事務所へダイナマイトを投げ込む最後の打合せをしたうえ、同日午前七時五分ごろ同所を出発し、池田組事務所の方に向つて進行し、同事務所の手前三七米位の地点で、後部座席の小林がガスライターを使用してダイナマイトに装置してある導火線に点火し、そのころ被告人は、自動車を時速約一〇粁に減速して進行し、小林は「ついた、ついた池田組の前で車を止め」と命じたのであるが、被告人が誤つて池田組事務所の前を通り過ぎ、同事務所より約一二四米西方の城東区商店街まで行き、同所南側の硝子戸の家を池田組事務所と間違えて、小林に対し「ほれ、ほれ」といい、更に小林にダイナマイトを池田組事務所へ投げ込ませるため停車したが、小林において池田組事務所前を徒過したことを知つて被告人に対し、バツクせいと頻りに要求したが、被告人も狼狽し未だ後退運転ができないうちに、車内において突如右ダイナマイトが爆発するに至つた事実が認められ、以上の各事実から考えると、被告人は直接爆発物たるダイナマイト等を所持したり、点火してはいないとはいえ、これらの行為を担当していた小林をして、目的とする池田組事務所へ右ダイナマイトを投げ込み、同事務所を爆破させるために必要である直接かつ重要な役割を、現場において果していたものであるから、被告人も爆発物使用の実行行為を分担したものと認めるのが相当であり、所論のように、被告人は実行行為をしない単なる共謀共同正犯に過ぎないものであるとか、被告人の行為が従犯的なものであるとは考えられない。

してみれば、被告人について爆発物使用の共同正犯を認定した原判決は正当であつて、その認定に誤はなく、かつその法令の適用にも誤があるとは考えられないから、所論は、いずれも採用し得ないのであるが、仮りに被告人の右所為が共謀の域を越えていないものと解しても、原判決の法令の適用になお所論のような誤があるとは考えられない。

すなわち、爆発物取締罰則第四条所定の共謀に止まる者に対する処罰規定は、同罰則第一条の罪を犯そうとして共謀したが共謀者のうち何人も実行行為に出なかつた場合において共謀をしたこと自体を独立犯罪として処罰する趣旨の規定と解するのが相当であつて、所論のように、同罰則第一条違反の実行行為があつた場合において、その実行行為を担当しなかつた共謀者をも処罰の対象とする規定と解することはできない。そうだとすると右第四条の規定は、刑法第八条但し書にいう特別の規定であるということができず、同条本文の規定により爆発物取締罰則第一条違反の罪についても当然刑法第六〇条の適用があるものといわねばならない。

そして、刑法第六〇条の解釈として、いわゆる共謀共同正犯者すなわち、犯罪の実行を謀議したが、実行行為に加但しなかつた者も、共謀者の他の者が共同の意思に基いて犯罪を実行した以上同じく共同正犯として処罰を免れ得ないことは、幾多の判例の明示するところであつて、爆発物取締罰則第一条違反の罪についてのみこれと異る解釈を採らねばならない合理的理由があるとは考えられないから、被告人の行為が同罰則第一条、刑法第六〇条に該当することは明らかである。

してみれば、原判決には所論のような誤はなく、論旨はいずれも理由がない。

控訴趣意中量刑不当の主張について

所論にかんがみ記録を調査し案ずるに、本件各犯行の罪質、態様特に本件は人命に危険を及ぼす爆発物を使用した犯行を含むことに徴すると、被告人の共犯者間における地位、役割、現在組関係を離脱していることその他所論の各事情を参酌しても原判決の被告人に対する刑は、重過ぎるとは考えられないので、論旨は理由がない。

よつて刑事訴訟法第三九六条により主文のとおり判決する。

(裁判官 笠松義資 中田勝三 荒石利雄)

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